地球から月の一面しか見えない訳

地球からは月の一面しか見えないことはよく知られています。

実際、夜空を見上げればいつも月は同じように見えます。(例えば日本では、月にうさぎがいるように見えるといいますね。いつも月の同じ面が見えているからこのようなことが言われるわけです。)

月が地球にその一面しか見せないのは偶然でしょうか。それとも必然でしょうか。

これに対しては、力学により答えが出ます。月が地球に一面しか見せないのは、エネルギーを最小にするためです。以下、これを説明していきます。

考え方の方針

さて、以上の疑問はどのように物理的に解決されるでしょうか。

まず、「月が地球に一面しか見せない」という主張を物理的に言い換えましょう。

月が地球に一面しか見せないということは、月が公転により地球に対して180度動いたとき、月は自転で180度回転するということですね。

これはつまり、月の自転と公転、2つの角速度が等しいということです。

従って、「月の自転と公転が等しい角速度を持つ」ことを示せれば、「月が地球に一面しか見せない」ということが説明できたことになります。

ここで、以上の、「月の自転と公転が等しい角速度を持つ」というのをどう示したらいいでしょうか。

まず思いつくこととして、月の角運動量を記述しれみればなにかヒントが得られそうだと考えられます。

しかしこれだけでは「月の自転と公転が等しい角速度を持つ」というのを示すことはできそうにありません。

ここで、全角運動量の保存を思い出せば、月の自転と公転の角速度の間にはなにか関係がありそうだと思われます。つまり、自転の角速度が変化すれば、公転の角速度も変化するだろうということです。

では、ここから2つの角速度が等しい値をもつメカニズムは何でしょうか。

それは「系はエネルギーを極小にとる」というメカニズムだろうということが想像できます。

従って、角速度を用いて系のエネルギーを記述すればよいですね。

以下、この方針でやっていきましょう。

月の角運動量

まずは月の角運動量を考えてみましょう。簡単のため、地球は動かず、月の公転半径は一定であるものとします。

月の質量を\(M_\mathrm{m}\)、自転の角速度を\(\omega_\mathrm{rot}\)、公転の角速度を\(\omega_\mathrm{rev}\)、公転半径を\(R_\mathrm{rev}\)とします。また、自転軸周りの慣性モーメントを\(I\)とします。

これで月の全角運動量\(L_\mathrm{tot}\)を以下のように書くことができます。

$$L_\mathrm{tot} = M_\mathrm{m} R_\mathrm{rev}^2 \omega_\mathrm{rev} + I \omega_\mathrm{rot} $$

ふたつの角速度、\(\omega_\mathrm{rot}\)、\(\omega_\mathrm{rev}\)の間にはどのような関係があるでしょうか。

それは、全角運動量\(L_\mathrm{tot}\)の保存から理解されます。

これはつまり、自転の角速度の変化\(\Delta \omega_\mathrm{rot}\)と、公転の角速度の変化\(\Delta \omega_\mathrm{rev}\)の間に$$0= M_\mathrm{m} R_\mathrm{rev}^2 \Delta \omega_\mathrm{rev} + I \Delta \omega_\mathrm{rot}$$の関係があるということです。(全角運動量の表式の両辺に\(\Delta\)をつければ分かりますね。)

これで、自転と公転、2つの角速度の間に関係があることが分かりました。$$M_\mathrm{m} R_\mathrm{rev}^2 \Delta \omega_\mathrm{rev} = – I \Delta \omega_\mathrm{rot}$$

月の運動エネルギー

これから、月のエネルギーを考えていきましょう。月の公転半径は一定なので、エネルギーは運動エネルギーのみを考えれば十分です。

月のエネルギー\(E_\mathrm{K}\)はこれまで準備した量を用いて$$E_\mathrm{K}=\frac{1}{2}I\omega_\mathrm{rot}^2 + \frac{1}{2}M_\mathrm{m}R_\mathrm{rev}^2\omega_\mathrm{rev}^2$$と書けます。

ここで、エネルギーが極小になっているときには角速度の変化(微分)に対して、エネルギーが変化しないことから、$$0=I\omega_\mathrm{rot}\Delta\omega\mathrm{rot} + M_\mathrm{m}R_\mathrm{rev}^2\omega_\mathrm{rev}\Delta\omega_\mathrm{rev}$$という式が導かれます。

先の議論で\(\Delta\omega_\mathrm{rot}\)と\(\Delta\omega_\mathrm{rev}\)の間に関係\(M_\mathrm{m} R_\mathrm{rev}^2 \Delta \omega_\mathrm{rev} = – I \Delta \omega_\mathrm{rot}\)があったことを思い出せば、上のエネルギーに関する関係式は$$0=I\omega_\mathrm{rot}\Delta\omega_\mathrm{rot} + M_\mathrm{m}R_\mathrm{rev}^2\omega_\mathrm{rev}\left(- \frac{I}{M_\mathrm{m} R_\mathrm{rev}^2 }\Delta \omega_\mathrm{rot} \right)$$となります。

整理すると、$$\omega_\mathrm{rot}=\omega_\mathrm{rev}$$となります。これがまさに得たかった結果です。

結論

角運動量の保存、系がエネルギーの極小をとるという事実から、月が地球に一面しか見せないことを説明できました。以上の議論では、地球が動かないことと公転半径が変化しないことのみを仮定していました。従って、これらの仮定が合理的であるとみなせる場合には、地球と月に限らず、一般の連星に対しても成り立ちます。

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